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縄文ニワトリ コラム vol.21
*ハチマキ先生
*jomon_niwatori
ある春の日...
「ぼうや、夏になったら引っ越すから。」
煙草を吸いながら、突然にママがそう言った。
僕は大変にビックリした。
でも、なんだか新鮮な気持ちになりちょっぴり嬉しかった。
単調に過ぎてゆく毎日に飽き飽きしていたから。
そうしてすぐに夏がきて、
僕はめでたく転校生になった。
きれいな女の先生に連れられて、僕は担任の先生に会いに行った。
「........ウ。」
絶句してしまった。
ものすごく汚いビーチサンダルを履いた、とてつもなく酒臭い男が、
ものすごく怖い顔をして立っていた。
鬼?頭にハチマキを巻いている。
「今日の俺は機嫌が悪いから赤いハチマキだ!機嫌が良い時は青いハチマキ、
まぁ普通の日は黄色。信号と同じだ。わかったか!」
チキンな僕は少しびびってしまったが、なんせまだヒヨコだったので、
好奇心も旺盛だった。
(これはおもしろいことになりそうだ)
ハチマキ先生はみんなの嫌われ者だった。
教室で酒は飲むし、すぐに殴る。
僕も縄跳びを忘れた時に往復ビンタを食らった。
それはハチマキが赤い日だった。
でも僕はハチマキ先生が嫌いじゃなかった。
ヒヨコながらにも、なんとなく「悪人」ではないことを感じていたからだ。
(きっと僕と同じ、不器用な生き物なんだよ)
ある朝、僕は何故だか急に思い立ち、ハチマキ先生の机の上に、
「縄文ニワトリの詩のノート」
をこっそりと置いてみた。
明確な理由はなかった。ただなんとなく置いた。
(ハチマキ先生、なんて思うかな?)
僕はハチマキ先生がノートを発見した時の様子を伺おうと、
物陰でこっそりと待っていた。
でも、ハチマキ先生が現れた瞬間に僕は逃げ出してしまった。
急に恥ずかしくなったんだ。
授業が始まっても、僕は恥ずかしくてずっと顔が上げられなかった。
(なんであんなことをしたんだろう・・・?)
ちょっと後悔した。
うつむいた状態のまま、とうとう「帰りの会」の時間になった。
「帰りの会」の時に毎日配られるプリントがあった。
「紙風船」という名前の、わら半紙一枚の学級プリント。
発行人はハチマキ先生。
内容は、あらゆる哲学や、生徒が書いた優れた日記・作文など...
可愛い挿絵もお気に入りで、僕は「紙風船」の隠れファンだった。
そしてその日も、やっぱり「紙風船」が配られた。
「.........!?」
....なんと僕が朝こっそり置いてきたばかりの詩が、
わら半紙一面に載っている。
「たまにはあなたも、ゆっくりとした時間に浸ってみませんか?
〜縄文ニワトリの詩のノートより〜」
みんな静かに読んでいた。
僕の心臓だけが教室中に響いていた。
チラリとハチマキ先生を見た。
ハチマキ先生は僕と目をあわさなかった。
でも、そうやって僕とハチマキ先生は、
不器用者同士の無言の会話をしていたんだ。
**********************************************************
僕は今、大人だ...
ついこの間、大人の僕に、ハチマキ先生から手紙が届いた。
「お元気ですか?一度きりの人生、やりたいことを精一杯頑張って下さい。
P.S/これ、同封します。」
...あの日の「紙風船」が同封されていた。
「紙風船」は毎日発行されるから、何万....何十万......
その中の、たった1枚が僕の特集号。
.....ハチマキ先生、よく覚えてくれていたね。ありがとう。
ねぇ、ハチマキ先生、あんであれは「紙風船」っていうの?
空も飛ばないし、すぐにショボムし、まるでニワトリみたいだ。
ハチマキ先生、僕は今でも詩を書いています。
ついでに曲も書いています。
歌だって歌います。
またこっそり届けるから。
もう少し。
待っていてね。
縄文ニワトリ コラム vol.22
*黒や白やピンクのハート...
*jomon_niwatori
「 縄文ニワトリってマイナス思考なの?」
ううん、そうじゃない。
こう見えても、僕はマーフィーやらなにやらの、
いわゆるプラス思考系の哲学がわりと好きで、
どちらかというと前向きなタイプだったりする。
...でも、どうしてもそんな気になれない日だってある。
知らない人のとっても悲しいニュースを聞いた時、とかさ。
最愛の人に去られたひとりぼっちの夜、とかさ。
僕の心は油絵ではないから、
そう簡単に「プラス」を重ね塗りすることはできない。
涙、涙で、青い時は青い。
愛しくて愛しくて、ピンクピンクピンク。
心に湧いてくる色に嘘はつけない。
だから僕は、色を重ね塗りするのではなく、
徐々にでいいから、ハートが自ら変色していってくれるように、
「ワクワク」を探す旅にでる。
旅の途中、
闇からオレンジに徐々に変わっていく、朝日みたいな出来事に出会ったり。
時にはグラデーションのように、時にはマーブル模様を描きながら...
あぁ、とてもきれい。
心の色のいいところは、ずっと同じ色にとどまらないところ。
君だけが知っている
君のハートの色。
時にはハートが暴走して、君の意志とは違う色になってしまう事もあるでしょう。
でも大丈夫、ハートは君を裏切って、ずっと汚い色で居続ける事はできないから。
いつもいつも「がむしゃら」じゃなくていいから、
「ありがとう」と共に、
君のペースで、「ワクワク」を探しにいこう。
君が幸せでありますように。
縄文ニワトリ コラム vol.23
*時の川と彼の海
*jomon_niwatori
僕の大切な人が、もうすぐ死んでしまうという。
僕は、大切な人の死の宣告を聞いたのは初めてなので、
とても動揺している。
時間の流れというのはとても残酷で、
僕の大事なもの達を飲み込んで、
そのまますごい勢いで目の前から消え去ってしまう。
その僕の大切な人は、漁師。
もう70年もの間、船に乗っている。
病院から退院してきたその日の夜中に、
彼は杖をつきながら、また海に出た。
その後も毎日1人で船に乗り、海に出ていくそうだ。
「なんでそこまでして?」
漁師の仕事は大変な体力を使う。
僕は「頭痛いから」「面倒くさいから」
そんな理由でやらなきゃいけない事を先延ばしにしてしまう事が多々ある。
そんな駄目な僕の中にも、彼の血が流れている。
しかも、唯一、彼と同じ血液型なのは、僕だけ。
僕は、倒れてしまいそうな程「もう嫌になった」時に、いつもふと彼の生き様を思う。
...彼を思うと、僕は弱虫な自分が恥ずかしくなり、
もう少しだけなら歩けるような気になってくる。
時の川が流れ込む海に、今日も出かけていく彼。
どうかみなさん、
もしもくじけてしまいそうになったら、
この1人の年老いた漁師の事を思い出して欲しい。
生きる。
誇りをもつ。
どうか、最後まで、君の誇りを捨てないで生き抜いて欲しい。
大切な君に、僕からの、たった一つのお願いです。
縄文ニワトリ コラム vol.24
薔薇のオイル
*jomon_niwatori
君は、1人で過ごすのが好き?
僕は結構、1人が得意。
小さい頃の僕はとても活発な子だった。
みんなと一緒に外で走り回って、泥だらけになりながら遊ぶ自然児。
ビルの隙間にある空き地が集合場所。
そういえばマンションの屋上に秘密基地を作ったりもしたよ。
僕は鍵っ子だったから、元気よく遊んで、帰るお家はとても静か。
ママが帰ってくるまで、僕は1人。
だからよく1人遊びをしたんだ。
テーブルに1人突っ伏していると、目の裏に綺麗な万華鏡のような景色が見えてきて。
原色のピンクとか、青とか、紫とか...次々に色や形が変わっていくの。
これを僕は「1人花火」って名付けた。ママが帰ってくるまでの間、ずうっと見とれてた。
あとね、天井の顔探し。
天井を見上げていると、いくつかの顔が隠れていた。
笑っている顔が見えると少し楽しくて、天井と、勝手に仲良くなれたような気がしてた。
怒っているのは大抵ピエロのような顔をしていて...
これを見つけてしまうと、なんだか悲しくなって顔探しは終了。
もう一つよくやっていた遊び。
僕の中に住んでいるいろんな僕を会話させる遊び。
その時の自分の気持ちにグーッと焦点を当てていると、
自分の心の中のどこにその「気持ち」が「居る」
のかがなんとなくわかった気になって。
例えば「悲しい」とき、自分の中のどこにその「悲しい」があるのか探すの。
ただ自分の心をじーっと見てると、なんとなく、「あ!ココにいた!」って感じてくる。
そして「悲しいちゃん」がココに居るって見つけたら、心の中で、
悲しいちゃんに喋らせてみるの。
悲しいちゃんが「僕、なんだか悲しくて」って言うと、
優しいちゃんが「どうして悲しいの?」ってどこかから答えてくれる。
悲しいちゃんが言う「ママがまだ帰ってこないんだ」
すると「意地悪君」が出てくる。
「お前はこんなに大きくなってもまだそんな我が侭を言っているのかい?情けない奴め」
優しいちゃんがこう言ってくれる。
「そんなことないわ。大丈夫よ、悲しいちゃん。誰だってそんな気持ちになることはあるわよ」
悲しいちゃん「うん、ありがとう、優しいちゃん...」
...そんなふうなさりげない会話から始めて、自分の心の中の劇場で、
どんどんドラマを繰り広げていくの。
この遊びを僕は「頭の中ちゃん」って呼んでた。
ママが帰ってくると、どんなにその「遊び」が僕の中で盛り上がっていても、
僕は一切をピタリと止めて、元気よく玄関に走っていったなぁ。
1人遊びは、1人の時しかできなくて。
誰かといる時は、天井の顔も見つからなくなってた。
子供の頃、
「大人になっても子供の気持ちを忘れないように、
今の気持ちや考え方を、ずっと覚えていよう。」
って繰り返し思い続けていたから、僕は比較的、子供の頃をよく覚えているつもり。
今となっては、果たして自分が「どれくらい覚えている」のかなんてわからないけれど。
子供の僕が、今の僕を見たらどう思うかなぁ?
「そこから見えるかい?」
時空のどこかから、見つめてくれているような気がするの、君が。
もしも君が、僕のことを好きでいてくれたら嬉しいです。
そうそう、薔薇のオイルを持っているんだ、今の僕は。
フライドさんがいつも放っていた、あの、甘い香り。
ねぇ、大人の僕も結構いいものだよ。
縄文ニワトリ コラム vol.25
*りんごの木
*jomon_niwatori
「縄文、まだやっているの?もうやめたら...?」
彼女があきれた声でそう言った。
「うん、もう少し...」
僕は、夢中になっているものから目をそらすことができなかった。
...その時の僕には、彼女がどんなに悲しそうな顔をしていたのか気づけなかったんだ。
次の朝目覚めると、彼女は、僕の家からいなくなっていた。
どこに行ってしまったのだろう?
キッチンにもいないし、暗室にもいない。
アトリエにもいないしスタジオにもいない。
彼女はどこへ?
背中で、「コトリ」と物音がした。
ティッシュの箱が1つ、裏返って落ちていた。
箱一面に、何やら文字が書かれている。
「腐れ縁って、いつ本当に腐ってくれるんだろう?
土に帰って、何か他の生き物の足しになるとか...
できれば、素敵な花の一つでも咲かせてくれれば良いのに。」
僕は1枚ティッシュを手に取り、とりあえず鼻をかんだ。
「僕らって、もう、腐っているの?」
ふと見上げると、コート掛けの止まり木に、彼女は座っていた。
「生きていく為に働いていたのに、働く為に生きていたり。
愛する為に生まれてきたのに、愛される事ばかりに気を取られていたり。
いつのまにか逆転しちゃって、その事に気づけないでいる。
私とあなた、どちらがりんごの木かなんて、たいした議論じゃないけど。
私は、あなたの為に実をつけた。あなたは、それを喜んで食べた。
あなたは私の枝を切った。そして私は喜んであなたの椅子になった。
あなたは、私の為に実をつけた。私はそれを喜んで食べた。
私はあなたの枝を切った。そしてあなたは喜んで私の椅子になった。
そう、二人とも椅子になった。二人とも椅子になってしまったら、
もうふたりして、腐るまで、そこに並んでいるしかないでしょう?」
「僕はまだ実をつける気でいるし、君の為に、もっと遠くまで枝を伸ばすつもりでいるのに。」
「だったら、もっと私をよく見てちょうだい」
そういう彼女をじっと見た。
よく見ると、彼女はゼンマイ仕掛けのニワトリロボットだった。
僕はコート掛けを蹴り倒して、外に飛び出した。
僕の愛しい...彼女はどこへ?
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